目次
はじめに ……9
第一章 『三四郎』(117)vs.『彼岸過迄』(117) ……19
1 『三四郎』(1908)の「迷羊」 ……20
1・1 漱石が「永久保存」したかった一枚の画像 ……25
1・2 『三四郎』の構造 ……30
2 『彼岸過迄』(1912)の冒険者田川敬太郎 ……43
2・1 『それから』を後回しにする理由 ……43
2・2 『彼岸過迄』の構造――左右対照性の意味するもの ……47
2・3 千代子獲りのプロット ……56
2・4 『彼岸過迄』という物語の時間 ……66
3 『三四郎』と『彼岸過迄』の117回 ……73
第二章 『行人』(167)+『三四郎』(117)[『彼岸過迄』(117)]=284 ……91
1 『行人』(1913) ……92
1・1 『行人』の語り手「二郎」 ……93
1・2 一見アモルフ(無定型)な167回という構造 ……96
1・3 「友達」――三沢という二郎の分身 ……97
2 『行人』の数理 ……116
2・1 『行人』の論理構造 ……116
2・2 二郎という冒険者 ……163
3 『三四郎』・『彼岸過迄』vs.『行人』 ……171
第三章 『こゝろ』(110)+『それから』(110)=220 ……183
1 『こゝろ』(1914) ……184
1・1 秘匿されたもの ……184
1・2 『こゝろ』の意図――主人公のデジャ・ヴュ ……193
1・3 表のプロット――Kのドッペルゲンガー ……199
1・4 裏のプロット――秘された主人公の恋 ……218
2 『それから』(1909) ……233
2・1 『こゝろ』の先駆的テクストとしての『それから』 ……233
2・2 純粋な二つの恋――代助と青年の「私」 ……246
終章 漱石の友愛世界、あるいは「主観小説」 …… 259
1 日本語の制約と本来の物語文体 ……260
2 出来事の時間と語りの「イマ」 ……277
3 『坑夫』(1908)――「友愛小説」群への始動 ……291
3・1 『明暗』(1916)に似た『坑夫』の構造 ……294
3・2 漱石の再出発――物語ること ……300
おわりに――美神に殉死した漱石 ……309
囲み記事 ……2・8・16・41・89・90・131・181・182・240・258・293・307・308
参考文献 ……313
新聞連載回初句一覧
『坑夫』 ……314
『三四郎』 ……315
『それから』……316
裏表紙
「はい、できました」
220: 1+2+4+5+10+11+20+22+44+55+110=284
220=142+71+4+2+1 : 284
「正解だ。見てご覧、この素晴らしい一続きの数字の連なりを。220の約数の和は284、284の約数の和は220。
友愛数だ。滅多に存在しない組合わせだよ。フェルマーだってデカルトだって、一組ずつしか見つけられなか
った。神の計らいを受けた絆で結ばれ合った数字なんだ。美しいと思わないかい? (小川洋子『博士の愛した 数式』新潮社2003より)
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自分も早速堕落の稽古を始めた。南京米も食つた。南京虫にも食はれた。町からは毎日々々ポン引きが椋鳥 を引張つて来る。子供も毎日連れられてくる。自分は四円の月給のうちで、菓子を買つては子供にやつた。然 しその後東京へ帰らうと思つてからは断然已めにした。自分はこの帳附けを五個月間無事に勤めた。さうして 東京へ帰つた。――自分が坑夫に就ての経験はこれだけである。さうしてみんな事実である。その証拠には小 説になつてゐないんでも分る。(『坑夫』巻末)
「……宅から電報が来れば今日にでも帰らなくつちやならないわ」
津田は驚ろいた。
「そんなものが来るんですか」
「そりや何とも云へないわ」
清子は斯う云つて微笑した。津田はその微笑の意味を一人で説明しようと試みながら自分の室に帰つた。
(『明暗』巻末)