いま書店にある本


・2011『日本語の深層――<話者のイマ・ココ>を生きることば』

(筑摩選書0011

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日本語の音声と意味とは密接に関連して、日本人の感性を音韻で表現しようとする。この感性は日本語の形容詞とも関わって、西欧語にない<イマ・ココ>の時間と空間表現を可能にしている。

 <話す・放す・離す>のように<す>を最後の音節にもつ動詞は、「何かを<する>」という共通の意味を基底にもつ。<隠す・試す・越す・超す・漉す>など全てがなにかを<する>という共通する意味をもつ。これが膠着語と言われる日本語の音声の特徴。だから、最終音節に<む>をもつ動詞、例えば<産む・噛む・挟む・読む>などは、全て何かを生む動作・作用を表現できる。

 これは、言葉がどう生成されるかを示唆する、言語学的に極めて魅惑的な見方。これを子供たちに教える国語教育を、これから目指すべきだ。こんな面白い言葉の原理の発見を、面白がらない子供はいないはず。国語の学級崩壊などありえない教室運営を、文部科学省がなぜプロモートできないのか。

 それは、文科省の役人並びに教科書を作っている学者がみな、こんな基本的な日本語の本質を知らないからだ。

 

 

・2015『源氏物語』深層の発掘――秘められた詩歌の論理』 (笠間書院)

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千年前に作られた日本文学の最高峰とされる『源氏物語』は、二十一世紀の今日まで、その主題が「もののあわれ」としか括れないものだった。しかし、「幻」巻以降は紫式部の作ではないことをテクストの正確な読みに拠って立証する。

 その結果、「幻」巻までの光源氏の物語(40巻)の主題は<夫源氏の不実による妻紫上の絶望と次世代に託す夢>という、全く新しい『源氏物語』本来の<主題>が炙り出される。

 紫式部という言語の天才が、中国文学を返り点送りがなの助けを借りずに読んだ結果、五言律詩の論理を『源氏物語』40巻の<構築原理organizing principle〉として応用し、物語を作った。それを過去千年間、日本人が誰も読み解けなかった!

 そのうえ、40巻に盛った和歌589首は、三十一文字の情理を<5-7-5-7-7>首に括るという新機軸を考案して、もう一つの<構築原理>とした。こんな超絶技法を使った文学作品は、古今東西の文学史に空前絶後だ。

 <589=31x19>! 作者式部は、この<589>を40巻に配置することを青写真にして、『源氏物語』を書き始めている。いままでの「成立論」、例えば「若紫」巻が最初に書かれたとする議論、「帚木」・「夕顔」はあとで書き足されたという論など、をすべて否定する『源氏物語』の<構造signifier>がここにある。